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神戸地方裁判所 昭和36年(レ)114号 判決

控訴人 申松子

被控訴人 堀池治水 外二名

主文

原判決中、控訴人の被控訴人堀池治水に対する家屋明渡を渡を求める請求に関する部分を取消す。

被控訴人堀池治水は控訴人に対し別紙目録〈省略〉記載の家屋を明渡せ。

本件控訴中その余の部分を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その一を被控訴人堀池治水の負担とする。

この判決第二項は、控訴人において被控訴人堀池治水に対し金二万円を担保として供するときは、仮に執行できる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人堀池治水は控訴人に対し別紙目録記載の家屋を明渡せ。被控訴人等に対し別紙目録記載の家屋を競売に付し、その競売による売得金を、控訴人に一五分の九被控訴人等にそれぞれ一五分の二づつ、分配する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は次に記載するもののほか、原判決事実に記載するとおりであるから、これを引用する。(但し、原判決事実中に堀池志さとあるのを柿木志さと訂正する。)

控訴代理人において、本件共有物分割の訴についての被控訴人等の本案前の主張に対し、

「一、遺産についての共同相続人の共有も民法第二四九条以下の共有と性質を同じくするものであるから、同法第二五八条に基く共有物分割の訴の許されないわけはない。

二、控訴人は別紙目録記載の家屋(以下本件家屋という)につき共有持分を譲り受けたもので、その共有持分は民法第九〇九条但書の規定に従い遺産分割によつても害されることはないから、本件家屋は、控訴人との関係においては遺産としての性質を失い、総合的遺産分割手続の対象となしえないものとなつた。従つて本件共有物分割の訴は適法である。

三、共同相続人にあらざる控訴人は家庭裁判所に対して遺産分割の請求をすることができないから、民法第二五八条の分割の訴が許されて然るべきである。」

と主張した。〈証拠省略〉

理由

一、本件家屋は被控訴人等の先代堀池末三郎の所有であつたが、昭和二五年二月三日末三郎の死亡により、被控訴人等及び堀池千枝子堀池幸治がそれぞれ一五分の二、柿木志さが一五分の五の各相続分に応じてこれを共同相続したこと、本件庭屋につき遺産分割が行われていないことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、当審証人高田雪雄の証言によれば、控訴人は昭和三二年一一月一一日に堀池千枝子から、同三五年三月一日柿木志さ及び堀池幸治から、それぞれその本件家屋の共有持分を譲り受け、各取得登記を了したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

すると本件家屋につき、控訴人が一五分の九、被控訴人等がそれぞれ一五分の二づつの共有持分を有することになる。

二、本件共有物分割の訴の適法性について、

遺産の分割については、民法第九〇七条第二項において共同相続人間における協議が調わず、または協議をすることができない時には、共同相続人において遺産の分割を家庭裁判所に請求しうると規定しているのであつて、右分割手続による分割の前に、遺産を構成する個々の財産について民法第二五八条に基く共有物分割の訴を提起することは許されない。

そして、遺産を構成する特定財産についてその共有持分を共同相続人の一人から譲り受けた第三者においても、右手続による遺産分割の前に右特定財産について前記共有分割の訴を提起することは許されないものと解する。

何故なら、遺産中の特定財産についてその共有持分が第三者に譲渡されても、当該特定財産が総合的遺産分割の対象から除外されるとは解されないところ(民法第九〇九条但書はかかる特定財産が遺産分割の対象となることを前提とした上での第三者の保護規定である。)、もしかかる特定財産について前記共有物分割の訴が許されるとすると、遺産分割に先立つて右特定財産についての共有関係が解消され、右特定財産については遺産分割の余地がなくなることとなつて、結局共有持分の第三者への譲渡によつて当該特定財産が遺産分割の対象から除外されることを認める結果を招来するからである。

すると、遺産分割前の遺産に属する本件家屋について共有物分割を求める本件訴は不適法である。

三、本件家屋明渡請求について。

被控訴人堀池治水が本件家屋を占有していることは当事者間に争がなく、本件家屋につき控訴人が一五分の九の共有持分を、同被控訴人が一五分の二の共有持分を有していることは前述のとおりである。そして、控訴人は、過半数の共有持分を有する者として、本件家屋の管理方法につき、自ら使用収益することに決意したことを原因として、本訴提起に及んだものであるから、本件訴状の送達により管理方法を右のように決定する旨の意思表示が被控訴人らに到達したものと認めるのが相当である。

遺産である本件家屋についての管理については共有に関する規定に従つて行われるべきであり、本件家屋を誰れに使用収益させるかということは共有物の管理に関する事項として民法第二五二条に従つて共有者持分の価格に従う過半数によつて決せられると解せられるところ、控訴人は単独で本件家屋の共有持分の価格に従う過半数を有するものであるから、本件家屋を誰れに使用収益させるかを決しうるのであつて、従つて控訴人が被控訴人らに対して自ら使用収益することに決したことを通知した以上、控訴人のみが本件家屋を使用収益しうることになる。

民法第二四九条は、各共有者は共有物の全部につきその持分に応じた使用をすることができる旨を規定するから、被控訴人堀池治水も共有者の一人として右権利を有することにはなるが、右規定によつて保障された権利は各共有者全員に与えられているものであつてもしそれが無条件に共有物を現実に使用収益できる権利であると解するならばその権利間に当然衝突が予想されるものであるから、右権利は、民法第二五二条に基く共有物管理に関する決議によつて裏付けられて初めて共有物を現実に使用収益することができるに至りその使用収益ができないときは共有物の現実の使用者に対してその共有持分に応じた価格による代償金を請求しうる権利であると解するほかはない。

すると、被控訴人堀池治水は、本件家屋の共有者であるということのほかに、本件家屋の占有権原について何等主張立証をしないから、本件家屋を現実に使用収益しうる者は控訴人のみであつて、同被控訴人ではないといわねばならず、従つて控訴人はその使用収益権の妨害を排除するため右被控訴人に本件家屋の明渡を求める権利を有するものと解するから、控訴人の同被控訴人に対する本件家屋の明渡の請求は理由がある。

四、よつて、控訴人の被控訴人等に対する本件家屋についての共有物分割の請求はこれを不適法として却下し、被控訴人堀池治水に対する本件家屋の明渡の請求についてはこれを認容するべきであるから、原判決は、これと趣旨を異にする部分は不当で、本件控訴は理由があり、これと趣旨を同じくする部分は相当で、本件控訴は理由がないので、民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第九二条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫 平田浩 黒田直行)

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